なぜ年金未納が多いのか

自民党のぼろ負けが確実視される参議院選挙に向けて、年金問題が焦点になっている。相変わらず与党は野党の攻撃に対して「財源は何処に?」と開き直って、「景気回復で対応」などと世迷いごとを繰り返してる。年金改革の中身云々以前に、この段階で与党の言うことは全て破綻している。

そもそも国会議員たちは、なんでこんなに「未納」(3割強)が多いのかという根本的な問題を真面目に考えたことがあるのだろうか。

だいたい年金というのは「老後が不安」ということを前提にしている。「老後が不安」という感情は、裏返して言えば「いまはそれなりの安定した給料をもらって働いている」からこそ、言い換えれば「定年」というものをリアルに想像することが出来るからこそ起こるものである。「来月は仕事があるだろうか」という不安を日々抱えている派遣社員やフリーターにとって「定年」など頭の片隅にすら上らないだろうし、そういう現実味のない「定年後」のために月額1万以上も払っていることの意味がわからないのは当然である。そしてテレビやネットのニュースを見ると、正しいかどうかはともかく「年金制度の破綻」というネガティヴなフレーズが踊っている。社会保険庁があれだけキャンペーンをして、納付率を上げようと懸命に頑張っても未納者が大して減らないのは当たり前である。

少し前までは、制度自体が整備段階であったこともあり、そもそも年金に頼らず生活する高齢者も多かった。親族関係や地域社会の「しがらみ」がそれなりに強固であったし、農家にいる一人の高齢者が、東京でサラリーマンをしている息子3、4人からの仕送りで生活するというパターンが多かったからである。特に日本では年金の徴収を官公庁や企業という組織に依存してきたという歴史がある。このため、サラリーマン(公務員と正社員)の数と給料が右肩上がりで上昇していた時期には安定した年金制度を運営することが可能だったのであり、また官公庁や企業の組織に属している限り、好き嫌いに関わらず自動的に年金を給料から差し引かれて納付率も自然と高くなったのである。

年金制度の「破綻」といわれるものは、まさにこうした「しがらみ」や安定した組織を当てにして年金制度を維持しようとすることの「破綻」に他ならない。その意味で、年金を税金化するという方向には賛成できるのだが、「老後が不安」=「現在は安心」と感じられる人々が増えるという根本的な次元を解決していかない限り、「なんで年金なんかのために俺の税金が・・・・」という潜在的な不満が募るだけになるという可能性も考慮に入れる必要がある。事実上国民年金制度の解体でしかないように思われる積立方式に妙に人気があるのは、「自己責任」原則を支持しているからというよりも、こうした潜在的な不満が増大しているからだろう。

与党は「景気回復で対応」などと平然と口にしているが、そもそもいまの成長路線が、年収数千万の富裕層と200万がやっとの正規雇用の増大を促しているという現実、つまり、そもそも老後の年金など必要なかったり、老後のことなど想像すらできないような人々を増大させているという現実に向き合っていない。与党は「現実性」を繰り返し強調するが、私に言わせればそれは「政権与党の議員にとって最も労力を使わない楽な方法」の言い換えに過ぎないのであって、実際は「現実」そのものすらろくに見えてないというのが私の印象である。

いままさに問題となっているのは、「年金制度など本当に必要なのか」という、根本的なところでの不信感にあるのだと思う。それを無視して「制度を維持するためにはどうすればいいか」を前提にした解決法を提示しても、国民の不満や不信が減少することはないだろうし、その解決法もたちまち「破綻」してしまうことも避けられないだろう。