増税論

台風で暇になったので、何度も触れてきた「増税」論について。


 国際比較で見ると、日本は税金と社会保険を足した国民負担率が低く
http://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/siryou/020.htm)、
GDPに占める税収の割合も低い。
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/5105.html

 消費税は先進国では有り得ないくらい低い。消費税というのは基本的には、高度消費社会を実現した先進国向けの税制だと理解しているが、ついに中国や韓国よりも低くなってしまっている。
http://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/siryou/102.htm
 ただ軽減税率を採用している国では、日本よりも安い課税品目もある。
http://sumai.judanren.or.jp/seisaku/page05-05/world02.pdf

 所得税は税収全体の割合が明らかに低く、累進率が国際標準よりもやや高めである一方で、課税所得最低限水準も低いという特徴がある。
http://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/siryou/028.htm

 唯一例外として、法人税だけが相対的に高く、しかも近年の傾向としては額が伸びている。
http://www.mof.go.jp/jouhou/syuzei/siryou/084.htm
 しかし、社会保険負担と併せてみると明らかに低く逆に個人負担が高い。(http://d.hatena.ne.jp/zundamoon07/20080922/1222088011
だから、よくある「法人税が高すぎる」論は間違いではないにしても、これを指摘しないのは明らかに公正さを欠いている。


 これらのデータは、グーグルで関連語を検索すれば一発で出てくるような、しかも中学生でも(というか数字に極端に弱い私ですら)誤解することがまず有り得ないくらい単純明快なデータである。また、人によってはほとんど自明の基本的な知識だろう。それにも関わらず、こうしたデータはマスメディア上では、まずほとんど全く出てこない。よく社会保障給付の低さばかりがデータとして出てくるのだが、これは明らかに税や社会保険の負担が低いことと相関している。

 税金や社会保険に関する国際比較のデータだけをみると、日本は明らかに韓国やアメリカに似ている。しかし、韓国は日本とは20年の落差がある後発的近代化の社会であり、社会保障制度の整備もようやく金大中政権になってからで、最近の傾向としては税金も社会保障給付も右肩上がりで増えている。アメリカにいたっては、国民皆保険制度への反対のデモが起こるくらいの、例外的に個人主義イデオロギーの強い社会である。50年も前に皆保険や皆年金を実現し、少子高齢化の水準も世界一となり、政府に対する期待や依存も決して低くない日本のような社会で、税金や社会保険の再分配の水準が韓国やアメリカに近いというのは驚くべきことである

 いまの日本の政治で常套句になっているものが、「財源がない」というものである。実際、今の日本で起こっている社会問題の多く(というかほぼ全て)は、結局のところは財源の問題であると言ってもよい。選挙では「無駄を削れば捻出できる」と勇ましいことを言っていた民主党も、さすがに政権を獲得してからはトーンダウンしはじめている。テレビのコメンテーターが民主党を批判する常套句も、「財源はどこに」である。

 だから、「税金を先進国並みに上げよう」という話が盛り上ってもいいはずなのに、さっぱりその方向に向かっていない。むしろ、「安易だ」と批判されることのほうが多い(そういう人のほうが明らかに安易な大衆迎合なのだが)。これは、一般国民のレベルだけではなく、増税が国民の負担を全体として軽減することをよく理解しているはずの政治・経済の専門家でも同じで、「参加型政治」「地方分権」を語るときはやたらと勇ましいのに、増税の話になると「まあ最終的には・・」みたいに途端に声が小さくなってしまう。

 いま問題とされていることの多くは、消費税を1989年から20年かけて15%に上げていれば済んでいたと思われるものが多い。例えば、後期高齢者医療制度が激しく批判されているが、消費税なら高齢の年金生活者も自動的に負担することになるから、こうした誤解を招きやすいややこしい制度の導入は必要なかったはずである。世界で突出した水準である赤字国債額にしても、よく「次世代へのツケ」と批判されているのだが、これが増税の代替策として採用されてきたことは普通に考えれば理解できることであり、まさに増税回避の世論が「次世代へのツケ」となっているのである。

 日本では、税金と社会保険負担が低いから給付も低いという、これ以上ないくらいの単純な話を無意味にややこしくしている人があまりに多すぎるように思う。規制緩和による企業の体力増強で税収をアップできるという、「構造改革」の論理を支持する人はほとんどいなくなったが(相変わらず声は大きいのだが)、かえって週刊誌レベルの官僚陰謀論や過剰な「無駄削減」論の横行は、ますますひどくなっているような気がする。