「上昇志向」を拒絶する日本

書き直し。

日本青少年研究所というところで、日本とアメリカ、韓国、中国の高校生を対象にした、職業意識や進路などに関する意識調査が行なわれていた。

http://www1.odn.ne.jp/youth-study/index.htm

個人的には余りアンケート調査のたぐいは信用していないし、4ヶ国でそこまで極端な違いあったとは感じなかったが、それでも予想通りというか、日本の若者の「上昇志向の欠如」というよりも「上昇志向の拒否」とでもいうべき傾向は、はかなりはっきり見て取れる。おそらく10%ぐらいは誤差の範囲内なので、他の国を20%くらい圧倒的に引き離している項目に着目すると、

「暮らしていける収入があればのんびりとくらしたい」が「とても」「まあ」「そう思う」の合計80.8%(米46.8 中41.2 韓61.8)。

人生目標の「高い社会的地位につく」の「あまり」「全く」「そう思わない」が50.8%(米18.5 中20 韓30.8)

「偉くなる」ことについての質問で、「偉くなると自分の時間がなくなる」が46.7%(米17.6 中21.6 韓13.6)

極めつけは、「あなたは偉くなりたいと思いますか」というかなりストレートな質問に対して、「あまり」「全く」「そう思わない」の合計が52.9%(米18.1 中10.7 韓27.5)で、実にアメリカの3倍、中国の5倍、韓国の2倍という圧倒的な数値をはじき出している。

この四つが特に極端だったのだが、いずれも「上昇志向」に直結する質問だったのは決して偶然ではないだろう。ここまで極端な数字ではなかったにしても、日本が軒並みポイントが低かった項目も、「高い学歴を得たい」「自分の会社や店を作りたい」「お金持ちになる」「有名人になる」など、明らかに「上昇志向の拒否」が顕著である。希望の職業も、他国では軒並み高い「医者」「弁護士」「デザイナー」「経営・管理職」などが、10%前後以下にとどまっている。日本と社会状況が似通っている韓国は比較的数値の傾向は似ているが、明らかに日本のほうが大きな数値を示している。

なんとなくわかっていたことではあるけれど、ここまで若い世代が上昇志向を拒否しているとはさすがに慄然とする。もちろん高校生の調査だから、ある種の社会に対する色眼鏡や偏見は確かにあるだろう。しかし考えてみれば、この10年の間自民党や財界は、「規制緩和」や「市場原理」を通じた「上昇志向」を懸命に煽ってきた。このアンケート結果は、ほとんどそれに魅力を感じていないどころか、むしろ若い世代の「上昇志向」に対する拒絶反応をかえって強めてしまったことを示している。こうした状況の下で「再チャレンジ」なる政策を導入したとしても、文字通りのチャレンジではなく、「チャレンジしないとフリーターに転落しちゃうから仕方がない」という、かなりネガティブなモチベーションのもとに進められていくことになるだろう。「上昇志向」が欠如しているところで「競争による活力」を求めようとすれば、長期的に社会的なストレスや不満をますます増大させることは容易に想像できる。そもそも、上昇志向のバイタリティあふれるアメリカや中国と、同じような経済政策を導入しているのがそもそも間違っているのである。

「上昇志向の拒絶」に関係しているかもしれないが、どことなく「内向き志向」もアンケート結果から感じられた。「外国に留学したい」や「外国へ行って見聞を広めたい」といった項目の数値が、留学熱が盛んな韓国や中国はともかく、誤差の範囲内とは言え外国へ興味関心が一般的に低いアメリカよりも低かったのさすがに驚いた。インターネットの利用頻度に関する項目は全て日本が圧倒的に低かったが、これはネットを通じた見知らぬ人との交流よりも、携帯電話による仲間内のコミュニケーションを好んでいることを示している。

アンケート結果は「出世なんてしなくていいから、気の合う人たちだけと付き合ってのんびり生活できればいい」という、まさに「スローライフ」という言葉そのままであるが、問題はいま自民党や財界が推し進めていることはこれとは全く逆の方向性であることである。もはや外食産業のチェーン店の従業員のほとんどがアルバイトという時代に、「フリーター」という低賃金労働層は存在はこれからも必要とされ続けるし、一部の官公庁や大企業の以外の「正社員」の労働環境が、フリーター以上に過酷であることはほとんど常識である。それなのに財界のトップでは、「若者は自分を高めるために過酷な労働を惜しまない」などと、冗談のようなことを真面目な顔で語る人が本当にいる。「スローライフ」志向は高望みをしないという点では非常によいことだと思うが、「上昇志向」を前提とした経済政策が根を張っている現在の状況だと、「フリーター」への転落を恐れるために(安定した収入が「スローライフ」の最低条件だから)、結果的にかえって死ぬほど働き続けることになる危険性が高いと言えるだろう。

もう既に多くの人が言っていることだが、「フリーター」を「一人前の社会人」として制度的にも道徳的にも扱う方向にいかないと(「正社員」へと尻を叩くことは何も根本的な解決になっていない)、本当にとんでもないことになると思う。

追記

考えてみると、日本以外の3カ国は「バイタリティ」の代表国のようなものだから、偏っていると言えば偏っている。日本のよく比較されやすいドイツとか、あるいは旧東欧圏とか、あまりバイタリティの高そうに見えない国との比較が必要になるだろう。