NHKスペシャル

NHKスペシャルの「高速ツアーバス」のドキュメンタリーを観たが、さすがNHKのドキュメンタリは―すごい。公共放送の必要性を強く感じるのは、こうした手間隙がかかる番組は民放ではとてもつくれない(実際作っていないどころか、議員や官僚(ときどき「だらしない若者」)など「叩きやすいやつ」ばかり批判して正義ぶっている!)からである。

あそこに登場した、下請けのバス会社をピンはねしているとしかいいようのない旅行会社の社長はたしかに「ひどい」の一言だが、むしろ問題なのはだれが見ても「ひどい」話が、当事者の感覚として全くなくなっていて、「一生懸命いいことをしている」と本当に信じていることである。そら恐ろしいのは、テキパキと饒舌に「コスト削減と安全管理は両立する」という例の社長の語り口が全く理屈だけが宙に浮いていて、人間を相手に話している感じがないことである。思い起こしてみると、キャラが強かったとは言え逮捕されたホリエモン村上世彰にもこうした「宙に浮いた」感じの議論の仕方は同じで、自分の実感としても日本のビジネス界全体に蔓延していると言ってよいだろう。下請けのバス会社の社長は、「なんとか窮状を察してくれ」という昔ながらの情に訴えようとするが、そもそもコミュニケーションの形式が違うので訴えが届くはずもない。

「時代だからしょうがない」と呟くしかないバス会社の社長の諦念が、なんとも重かった。それは「俺は時代遅れだから没落するしかない」という言葉以外に自分の窮状や不満を説明できないという絶望感なのであり、同じような絶望感を共有している人は若者・中高年を問わず少なくないだろう。

それにしても、あの社長はドキュメンタリーの内容を全く知らなかったのだろうか・・・?(だとしたらNHKはやっぱり凄いとしかいいようがない。)