中田英寿の引退宣言

サッカーは詳しくないので中田英寿の引退宣言にはこれといった感慨はないのだけれど、彼が日本サッカー界の「顔」であるのはいいことじゃないな、と長い間傍目から見て思ってきた。

カズこと三浦知良は万人に愛される、明るさと人格を備えた選手だった。愚痴も人の悪口も一切言わず、挫折を繰り返しても常に強く明るく振舞い、ショーマンシップにあふれていた。彼が日本サッカーの「顔」だった時代、サッカー音痴の野球ファンからみても彼のスター性は素晴らしかったし、当時のJリーグの雰囲気も非常に明るく、当時のプロ野球がいかに野暮ったいものであったかを痛感させられていた。しかし中田英寿はカズの作り上げた明るさを、いっぺんにぶち壊してしまった感じがする。彼が日本代表の中心選手になるにつれて、ウザイくらいの目立ちたがりやの集まりだったサッカー選手は、次第にストイックで気難しい顔つきに変わっていった。これは推測だが、中田が「あいつの前で馬鹿なパフォーマンスは出来ない」という雰囲気をつくってしまったところはあると思う。

中田の実力は正直なところよくわからない。彼のおかげで日本サッカーのレベルが上がったところもあるのだろう。しかし、彼のようにストイックで気軽に声をかけられないような雰囲気をもった、本来なら「ヒール役」をつとめるような選手が日本サッカー界の「顔」だったことは、正直なところ非常に不幸なことだったと思う。プロ野球に関していえば、人気向上に貢献した人物はいうまでもなく長嶋茂雄王貞治である。彼らは決して愚痴や悪口ひとつこぼすことなく、日本野球界の顔であることを自覚して、常に万人に愛させるような選手であることを心がけてきた。野村克也江夏豊のような「ヒール役」は、王・長島らを鏡にしてこそ生きたのである。本当はサッカーでも、カズのような垢抜けた人格のある選手が鏡になってこそ中田の存在が生きたと思われるのだが、不幸にもそうはならなかった。

野球ファンの目から見て、サッカーは人気があるはずのなにサッカー界に活力がないように見えるのは、色んな理由があるとは言え、やはり一つには中田に責任があるのではないだろうか。やはり、プロスポーツ界のトップ選手は万人に愛されるような普遍性をもったキャラクターでなければならないと考える。