スモールベースボール

今大会日本チームは「スモールベースボール」を看板に掲げていた。バントや盗塁などの機動力を絡めた、俊敏さときめ細かさを基調とする野球であり、日本の野球では高校野球の影響もあってこの点で質の高さは世界最高水準にある。これまでの五輪代表などは、日本で豪快な本塁打を量産している連中による重量打線を組むことが多かったが、今回のWBCはイチローのほか西岡や川崎といった俊敏な選手をレギュラーで使い続ける一方で、パリーグ首位打者和田やセリーグ本塁打王新井など、あまり足や守備が得意でない大砲をベンチに置き続けた。福留や多村は大砲としてスタメンに名を連ねていたが、守備がよく足も速いほうの選手でもある。たとえ2次リーグで負けていたとしても、この方針は完全に正しかったと思う。

ただ正直なところ「スモールベースボール」がようやく実践できていたのは決勝戦であったように思う。日本で培ってきた「スモールベースボール」というのはバントと盗塁という機動力として理解されがちだが、それだけではない。まとめれば以下のようなものだろう。

①チーム方針を意思統一させ、戦術・戦略をチーム全体で共有する。
②対戦相手に関する情報を可能な限り収集して対策を練る。
カバーリングや中継など「当たり前」のプレーを重視する。

一言で言うと、相手チームに「凄いな」ではなく「嫌だな」と思わせる野球、見た目は強くないけどいつの間にか相手のほうで自滅していく野球、これが私の理解している日本の「スモールベースボール」である。バントと盗塁はこの結果として重視されてきたのであって、それ自体が「スモールベースボール」の必須アイテムな訳ではない。

キューバに勝てた原因はいろいろあるだろうが、日本の打者が打席で集中してボール球を振らなかったことがやはり一番大きいと考えている。よく言われる言葉だが、「自分で決めるのではなく後ろにつなぐ」という日本野球の攻め方がよくできていた。1回の攻めは、西岡が内野安打で出塁して盗塁し、イチローが四球、松中は広く開いた三遊間に流し打って内野安打、多村は死球押し出し、里崎は三振したが、小笠原が粘りに粘って四球を選んで押し出し、そして今江のタイムリーと、目の覚めるような打球がほとんどないにもかかわらず4点を獲ることができたが、これはまさに日本で見慣れてきた「スモールベースボール」そのものである。キューバの投手は確かにコントロールが普段より乱れていたかもしれないが、日本の打者がボールになる変化球を振ってくれないのでイライラしていたはずである。結果的に10点は獲ったものの外野の頭上を越えていくような、目の覚める当たりはほとんどなかった。そういう当たりはむしろキューバのほうによく出ていた。

こういう日本国内では当然やってきた野球は、今までの五輪代表は単にブンブン振り回すだけでまったくできてなかったし、今大会も準決勝まではあまりできていたようには見えなかった。近年のプロ野球では「スモールベースボール」が影を潜めて、本塁打がやたらに飛び交う緊張感の欠けた乱打戦が目立つようなっているが、プロ野球の人気低下と無縁ではないだろう。優勝をきっかけに「スモールベースボール」の復権を望みたい。