少子化問題
最近少子化問題について考えたので、まとめてみます。
最近の大きな流れは、「働く女性に対する支援をすることが少子化問題を解決する」ということらしい。これは、そもそも「働く女性」を嫌う一部の保守派や、この論理に実証的に疑問をもつ少数の専門家を除くと概ね賛同を得ていると言える。少子化問題対策の猪口大臣などは以前、フリップを用いて「女性の労働化率と出生率は相関してます」と断言していた。つまり女性の社会的な地位向上こそが少子化を解決するというのである。
これが実証的に正しいかどうかは専門家に任せることにして、重要なのはそれ以前の問題である。つまり猪口大臣の言っていることをそのまま受け取れば、「出生率を上げるために女性は頑張って男性と同じように懸命に働いて競争してください。そのための条件は私たちが整備しますから」と言っているのである。つまり出生率向上をダシにして女性のキャリアアップを奨励しているのだ。
言うまでもないが、日本では専業主婦という生き方は社会的に認知されてて、それを望む若い女性も多い。また仕事をしている女性で男性と同等にキャリアアップを目指しているような、高い収入とやりがいのある仕事についている人は(男性と同様に)多数とはいえないだろう。つまり、「出生率の向上」という誰もが否定できない(私は必ずしも肯定しないが)国民的課題を盾にして「働く女性」の支援を行なうことは、勢いすべての女性に「高い収入とやりがいのある仕事についている人」になれという、そもそも多くの女性が切望しているとは思われない無理難題を要求するだけではなく、キャリアウーマン以外の生き方の選択肢を少なくとも「二級」扱いすることになる。事実、猪口大臣の主張の力点が「少子化」より「働く女性」にあることは明らかである。
猪口大臣は「女性が子どもを産みたくても産めない環境がある」という。もちろん何か問題があるときは環境が一つの要因にはなっているのは当然だが、そこまで劣悪な環境が存在しているのか正直なところ疑問を感じる。それに昔に比べると、出産・育児後の職場復帰は普通に認められるようになっており、「寿退社」という言葉も死語になりつつある。産休の間の給料がどうかという問題はあるが、十数年前に比べればずっと改善されていることは誰もが認めるだろう。しかし、この間に出生率が上がったかといえば、むしろ悪化してる。不思議なことに誰もそれを問題にしようとしないのだが。
そもそも少子高齢社会化はよほどのことが起こらないかぎり、むこう50年は続く趨勢であることは絶対に確実である。今まで1.2だった出生率がいきなり2にあがることはまずありえないし、またそうなったとしたらかえって異常な事態である。政治家や専門家は、少子高齢社会という確実に到来する現実に対処しうるような社会制度をどう再構築するかということが、目の前の緊急の課題であるはずである。それなのに、そうした現実の緊急課題から目を背けて、「働く女性の支援」をして「出生率の向上」をはかって解決するという、実際に実現可能かどうかかなり不確定な政策に膨大な税金をつぎ込んでいる。そして、こうした方向性に異を唱える人が、政治家やマスコミのレベルでほとんど存在していないという状態なのである。
「年金制度が維持できなくなるから少子化を解決しなければ」などと平気で言う人が国会議員でもいる。制度は人が設計したものだから立法という手続きをとれば改変可能だが、少子化のための政策で「多産化」の実現を確実に導くことは難しい。そもそも、人為的な計画によって生まれくる子どもの数を操作しようなど、余計なお世話でおこがましいことだと、そろそろ考えはじめてはどうだろうか。