男女共同参画

「個別のテーマが、若年低賃金層にとってどのような意味を持っているのかという具体的な分析に議論を向けていくべき」だと先に書いたが、例えば「男女共同参画」について。「男女共同参画」に賛成する層としては、基本的に女性が期待されている。少なくともこの理念を掲げている人は、ほとんど無条件にそう思っているだろう。しかし前にも述べた通り、「男女共同参画」を前面に出した浅野史郎に女性票はさほど集まらなかったと言われている。そこで、どういう女性が「男女共同参画」を支持したり反発したりするのかを少し考えてみたい。しっかりしたデータに基づくものではないで、あくまで仮説である。

(1)専業主婦層 
 普通に考えれば、この層には「男女共同参画」に共感する人は多くはないだろう。しかし一方で、この層は比較的生活に余裕がある人が多いと思われるので、家の中に閉じこもって家事ばかりこなす生活に満足できず、「社会活動」の一環として「男女共同参画」に関わる人も少なくないと考えられる。実際「市民団体」を構成している人々の一定多数が、「余った時間」の多い主婦層であることは間違いない。「男女共同参画」には政治や経済だけではなく、環境運動やボランティア、地域社会の活動のようなものも当然入るわけで、このような活動の担い手として時間と金銭の余裕のある専業主婦層は重要である。

(2)キャリア女性層
 官公庁や大企業という大きな組織の中で働く女性であり、「男女共同参画」に素直に賛同する人が最も多いと思われる層である。出世における男女格差の撤廃、育児休暇制度や子育て支援などの取り組みはキャリア女性にとっては死活問題である。知的能力も一般的に高いので、「男女共同参画」の理念をよく理解できるし、それを掲げる人にも親近感が沸きやすい。ただこの層も専業主婦と同じく一枚岩ではなく、政財界に多い「競争原理」派と、大学教授に多い「福祉と平等」派があることは注意する必要がある。

(3)低賃金層(派遣・パートのほか、一定の正社員も含む) 
 問題はこの層である。(1)と(2)はこれからあまり量的に飛躍的に増えることはまずなさそうだが、この層はこれからも増え続けることが普通に予想される上に、「男女共同参画」に賛成する要素が少ない。まず専業主婦層に比べると、金銭的にも時間的にも余裕がないので、「男女平等」を掲げる社会運動に関わることのできる機会も能力もない。そしてキャリア女性層に比べると学歴もあまり高くなく、上昇志向もかなり弱い。そもそも職場環境自体が「男女共同参画」以前である。仕事はほとんどスキルアップのない単純作業で、「出世」自体があまり望めないし、また「育児休暇」を持ち出そうものなら、会社から「うちにはその余裕がないからやめてもらうしかない」と言われかねない。実際そういう(一昔前なら耳を疑うような)事例をしばしば耳にする。こうした女性たちにとっては、「男女共同参画」はやはり、余裕のある生活を送っている主婦層や、安定した社会的な地位と収入を得ているキャリア女性の掲げる「きれいごと」くらいにしか映らないだろう。低賃金層の女性にとって、「男女共同参画」はほとんど手の届かない「贅沢品」なのである。自分の生活状況の改善につながる気が全くしないので、「男女共同参画」などに関心のもちようがないし、「キャリア女性」などが声高にそれを掲げる姿を目にすれば、やはり反発を感じるのは自然と言えるだろう。

 フェミニストの学者や活動家は、「それは男女共同参画の理念を理解してないからだ」と言うのかもしれない。しかし、そうした啓蒙主義的なスタンスに居直る前に、現在の「男女共同参画」が最も困窮している低賃金女性層にとって何の「解決」にもなっておらず、また何の「希望」も与えていない可能性について真剣に悩んでみる必要があるだろう。少なくとも「右傾化」とか「バックラッシュ」とか、そういう中身のない言葉を使ってレッテルを貼るような真似だけはやめるべきである。