国家の品格

藤原正彦国家の品格』という本が最近売れているらしいので、今更ながら手にとって読んでみた。

私は基本的に伝統保守的な考え方をしているので、本の内容は比較的素直に頭に入るのだが、だんだん退屈になって途中から飛ばし読みになってしまった。

この本が床屋談義にすぎないという批判もあるが、床屋談義として読めば(書いているほうもそういうつもりなところがあるし)そんなに悪い本ではないような気がする。あまたある「嫌中・嫌韓」本のように、下手に実証性を売りにして自らが中立的であるかのように装う本のほうが、はるかに問題である。自国賛美がすぎるという声もあるが、むしろ私は現状の「自国」に対する過剰な否定的評価に対して、「そこまで堕ちてはいないだろう」と思ったくらいである。

むしろ一番の問題は、「道徳」「情緒」とか「もののあはれ」が大事だとか言っていることである。この本を読んで、自称「伝統保守」の「道徳論」に反発を感じてきた理由がなんとなくわかってきた。道徳というのは思想観念ではなく、具体的な態度や振る舞いに表れてこそ意味を持つ。「道徳が大事だ」と声を上げて言っている人に限って「道徳」が感じられないことが多いように、「道徳を大事しよう」と思うことで、その人が道徳的になるわけでは決してない。

だから「道徳」や「情緒」を説く前にやるべきことは、具体的にそのように感じられる行動をとったり文章を書いたりすることではないだろうか。その上でさりげなく「道徳」や「情緒」を語るのであればいいかもしれないが、「道徳」や「情緒」という観念自体を語ってもほとんど意味があるようには思われない。私の読む限り『国家の品格』は少なくとも「道徳的」な本ではなかった。