yahoo!ニュースのコメント欄がひどい

ネット上のヘイトスピーチというと「2ちゃんねる」が有名だが、あきらかにそれ以上にひどいところがある。それはyahoo!ニュースのコメント欄だ。この欄のコメントの偏見の凄まじさにはときどきびっくりさせられる。

例えば先日の総務省の坂本政務官の「派遣村」に対する「働く気があるのか」という、失言というよりも「暴言」としか言いようのない発言について、そのコメントが途方もなくひどい。「派遣村に集まったヤツだけ見てれば、あの発言は仕方ないだろうな」とか、「この派遣村だって露骨に政権与党批判のために集まってるじゃねーか」とか、「一般人はみんな必死で仕事してるんです。公園でタバコすってたむろして,9条がどうしたの旗掲げてるやつら,まさに”まじめに働こうとしていない”やつらばかり」などといったものだ。国籍法改正のときもとんでもないひどさだったが、ネット上とはいえ、ここまで露骨なヘイトスピーチは日本ではありえないだろうと、以前はもう少し素朴に考えていた。

2ちゃんねる」も前からひどいことはひどかったが、その文体からして皮肉や諧謔が入っている。そこに集っている人の階層構成も、おそらくは社会的には周辺的な地位にある人たちで、そこには世の中の主流の意見や綺麗事にあえて背を向けてみせるという、天邪鬼的な態度がある。だから内容がどうであれ、そんなに深刻に受け取る必要も感じない。

しかしyahoo!ニュースのコメント欄が深刻なのは、その文体はきわめて率直であるだけではなく、書きんでいる人にも、比較的「まともな社会人」が多いと想像できるからである。選挙に毎回足を運んだり、職場や地域社会で発言力を持っている人たちの中に、こうした感情が巣食っているとしたら、それは恐ろしいことである。

そこに共通しているにのは、「俺たちが今の世の中で一番苦労させられている」という、おそらく正社員でありつつ低賃金長時間労働を強いられ、社会保険や税金も「きちんと払っている」という意識の強い中間層の被害者感情である。この年金生活者の意見なんかが典型的じゃないだろうか。

私は(国民年金)で頑張って生活をしておりますが、なぜ?? (生活保護)の方はそれ以上に多いのでしょうか? インターネットを覚えてその事を知ってビックリしました。少しは改善されたようですが、まだ何万円か多いようです。貧しくても無理して年金を払ってきたのに、真面目に払った人が損をする。本当に日本っておかしな国ですね! 今後、改善される事を期待しております。

もちろん、国民年金と他のセーフティネットが不十分すぎるのである。しかしそうではなく、なぜか「派遣は苦労が足りない」という話にすりかわってしまうのだ。実際に「派遣切り」に遭った人は、こんな声に囲まれたらほとんど自殺するしかないだろう。

考えてみれば、「小泉改革」以降、もっとも割を食ってきたのはこの、低額の年金生活者を含む正社員中間層であった。大企業やベンチャー企業は政策的に優遇され、不安定低賃金層も次第に援助すべき対象として政治的な問題として取り上げられるようになってきた。しかし、正社員層はというと、基本的になんの援助の必要もなく、それどころか競争もせず既得権に安住している層として見られがちであった。「派遣切り」の問題でも、「ぶらぶらしている」「無駄な」正社員が多いことが原因だと、まじめな顔で語る専門家が実際にいるのである。

こういう正社員中間層にとって、派遣村に集まるような人たちは、メディアにも好意的に取り上げられて「自分たちより恵まれている」ように見える。「俺たちはこんなに苦労して働いても誰も同情してくれないのに」というわけだ。正社員にすると企業に補助金を出すという政策を打ち出しているが、正社員という地位そのものが人々にとって幸せなものではなくなっている以上、現実的ではない。

一つだけつっこんでおくと、別に9条ののぼりが上がってようが、あるいは右翼の街宣車が来ていようが、派遣NPOと政治集団とがこの問題をお互いに「利用」しようとするのは当然のことだ。この過剰な「政治忌避」の態度は一体なんなのだろうか。日本は民主主義国じゃないのだろうか。誰もが「官僚政治」を批判しているが、官僚政治をのさばらせてきたのは、政治を自分とは外の世界に追いやろうとするこういう態度に他ならない。

こんなわかりやすいほどわかりやすい話題ですら、失業者のための社会保障制度の整備という国民的な合意が成り立たないようでは、なんかもう絶望的である。今のところ、日本が将来的に「貧困国」なるシナリオしか描けないというか、Yahoo!ニュースのコメント欄はそのことを望んでいるとしか思えない。